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コラム(1993年):情報の歴史をめぐる物語(1) 1~6
1.情報センター
書物のブラックホールだった人類最古の図書館。
コンピュータによるデータベース出現までの時代、図書館は文字通りの情報センターであった。
人類最古の図書館は、紀元前3世紀の古代エジプトにあったアレクサンドリア図書館といわれる。
入港する船が積荷として持つ書物のいっさいをコピーして、原本をすべて図書館に没収し、ついに蔵書数50万冊に達したというから、まさに情報のブラックホールである。
天文学的な数量に昇ったこの蔵書がいったいどこで消えてしまったのかは歴史上の謎。
クレオパトラに味方したシーザーが、戦役で火を放ったという伝説もあるがさだかではない。
エジプトの地下深く、いまも膨大な書物が人知れず眠っていると考えるのも一興か。
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2.マスメディア
読む前から心を打たれた世界最初の印刷本。
マスメディアの誕生は、グーテンベルクの活版印刷に始まる。
1455年、彼がつくりあげた世界初の印刷本は、美しいラテン語聖書であった。
現代から見ても非の打ちどころのないゴシック書体の傑作であり、人はその語間から発する気高い精神によって、読む以前からすでに心打たれたという。
しかし、この1冊のために全財産を注ぎ込んだ彼の事業は失敗し、貧困と失意のうちに世を去る。
同じ世紀末には欧州各地に千軒を越える印刷所が設けられ、著作権も生まれたというから、彼の偉業は半世紀ばかりの時代の先を走り過ぎていたのかもしれない。
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3.通信
高速通信に挑み続けた人々の苦闘。
通信の歴史は、いかに早く情報を伝達するかに腐心した先人たちの努力の上に成り立っている。
古代マラトンの戦場からアテナイまで、戦勝を告げるためにひた走った兵士の逸話はその代表。
忠臣蔵で有名な浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)切腹は、早駕籠(はやかご)をもってしても四日半かかったという。
通信スピードを生かした例としては、ローマ帝国やスペインの無敵艦隊が押し寄せたときのイギリス人の狼煙(のろし)伝令があるし、ナポレオンのヨーロッパ遠征を常勝で支えた腕木通信がある。
日本でも江戸末期から大正末期にかけて、小山から小山を結ぶ旗振り通信が発達した。
堂島の米相場が、初期の電話より早く姫路あたりまで伝送されたというから立派な高速通信である。
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4.情報経済学
殿様もうらやんだ情報分析の天才。
通信が発達し、情報スピード差や分析力の違いが生じてくると、そこに価値が生まれる。
こうした情報経済学はベニスの商人、フィレンツェの公証人、ジェノバの複式簿記が起源となった。
我が国の場合、情報を利して百万の富を築いた人物の代表といえば、江戸時代の天才相場師、本田宗久であろう。
宗久が考案した「ロウソク足」をはじめとする米相場分析の罫線は、いまも株価などのチャート図の原典として生き続けている。当時、宗治の情報分析力が、いかに人々の羨望の的であったのかは、「本間様には及びもせぬが、せめてなりたや殿様に」と唄われた俗謡にしのぶことができる。
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5.情報整理学
漢字はアルファベットよりも強し。
ビジネスマン諸氏ならずとも、情報の整理には誰しも人一倍苦労するものである。
情報整理学の始祖は、ギリシャ時代の哲人アリストテレスといわれる。
世界初の個人書庫をを持っていた彼は、修辞学、法学、詩、悲・喜劇、歴史、医学、自然学など実用的な書庫分類を実践していた。
しかしこうしたジャンル別の分類法にも、あいまいさという弱点が残る。
この限界をアルファベット順という簡単な分類で、いともあっさりと解決したのが、バロック期の巨人ライプニッツである。
彼の偉大さは、漢字が持つ視覚情報性に驚嘆し、アルファベットの限界も指摘し得た所に現れている。
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6.うわさ
伝染する狂気のパワーを持った最強メディア。
古今東西、最も力強い伝達力を持ったメディアといえば”うわさ”の右に出るものはない。
1963年、J・F・ケネディ大統領が暗殺されたとき、その30分後には全米の68%の人間がこの事件を知り、わずか2時間足らずのうちには国民の92%が知っていたという。
この事実をある学者が調査したところ、人口の半分はTVやラジオなどのマスコミで情報を入手し、あとの半分は人づてのうわさで知ったことが判明した。
うわさのパワーは「あいまいさ×重要さ=」という数式で表現される。
情報伝達というよりは、すでに伝染の世界である。
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